書評 ユートピアの崩壊 リュックフォリエ お金持ちナウルの現在

書評・番組紹介

世界で3番目に小さな国が、
1970~80年代まで
世界トップクラスの裕福さを持ち、
現在は自力での国家運営が厳しく
最貧国と言われているくらい経済が破綻している国、
それがナウル共和国です。

あなたはご存知ですか?
ラッキーなのか
そうではないか考えてみてください。

ユートピアの崩壊

そのナウル共和国。
何故この国を知ったかというと、
この衝撃的なタイトルの本からです。

ユートピアの崩壊 ナウル共和国
世界一裕福な島国が最貧国に転落するまで
著者 リュック・フォリエ、訳 林昌宏

Luc Folliet, 「Nauru, L’île dévastée. Comment La civilization capitaliste a détruit le pays le plus ribe du monde」, Éditions La Découverte, Paris,2009
「」内の原題部分を直訳すると
「ナウル、荒廃した島―資本主義文明が
いかにして世界一裕福な国を破綻させたか」
訳題では何か抒情的な物語のイメージ、
原題は原因を資本主義文明、
としていてジャーナリズム・実録っぽいですね。

30分もあれば車で一周できる、
こんな小さな国に何が起きたかについて
書かれたのがこの本です。

私の読書歴の中でもかなり衝撃的な本で、
少し立ち止まって人生を考え直すくらいの
インパクトがありました。

原本は2009年6月にフランスで発表。
日本語訳は2011年に出版され、
購入したのは2013年の第2版。

著者は、小さなころに人口5000人の太平洋の南の楽園
という印象でこの国に興味を持っていて、
大学でジャーナリズムを専攻していた2001年ころに
この国の惨状を知り、
卒業後のしばらく経っての、2005年
ドキュメンタリフィルム作成のために2週間、
翌年クルーとともに6週間、ナウルに滞在しています。

本を書いたのはドキュメンタリフィルム作成の延長という形みたいです。

ナウル島の位置

ナウルはこんな島です。5キロ四方に収まります。

南海のまさに孤島

この国がどのくらい孤島なのかというと、

赤道直下にあるこの島は四方200㎞でもこの様子。

更に遠くから見ると、近隣の国との位置関係はこんな感じ。

隣国というには遠いですが、
世界でナウルの次に大きいツバルがあります。
ツバルは海水位の上昇で
島自体が沈没の危機にあるので有名な国です。

ちなみに国の小ささでいうと
1バチカン、2モナコ、3ナウル、4ツバルという順です。

ちなみに日本から見るとこんな位置。

遠い島ですね。

ナウルの歴史

この島の起源は、
祖先がアジア系ではないかと考えられている程度で、
判る資料や言い伝えもないそうです。

この島で埋蔵量の多い、
純度の高いリン鉱石が発見された瞬間に
島の運命が大きく回り始めます。

鳥の敵が存在できないような孤島で、
膨大な鳥糞が長年かけてリン鉱石になっていった
ということらしいです。

リンは今でこそ、
その使用に対して規制の対象になっていますが、
当時では化学肥料、洗剤、化粧品など様々な用途があり、
国力が上がるほど必要となってくる元素です。

元素記号は Pで表します。
原子番号 15、原子量 30.97 の元素です。

当然膨大な富を生みだすものなので、
高純度なリン鉱床があれば
国を挙げて奪いに行くものです。

ナウルでは1907年から
イギリス(の会社)がリン鉱石採掘を始め、
ナウル独立後の1970年まで利権を持っていました。

独立後の国家運営

リン鉱石の埋蔵されている島で
生まれ育った人にとってはラッキーそのもの。

この幸運を島民がやっと
享受できることになったのですが、
多分問題となるのはこれから。

独立したのちの10年は
オイルショックで資源が高騰したこともあり、
当時のレートを考えると、人口5000人に満たない国家が、
150億円以上の可処分所得を上げていたことになります。
日本の2倍、アメリカの1.5倍くらい。
このお金の使い方をどうするか。

お金の使い方

当然のように膨大な資金を得たのですが、
ナウルは結構な村社会らしく
利益はそれなりに均等に分配されているうえに、
もちろん税金、医療費、住宅費はただ。

各家庭に家政婦まで政府が付けてくれる
という太っ腹な感じ。

狭い島内を移動するために車を何台も持ち、
壊れたらそこで乗り捨てる。
車から降りるのも面倒なので、
世界で初めて中華料理屋の
ドライブスルーを発明させたくらいです。

つまり、ナウル国民であれば、
働かなくてもいい状態が
ここに出来上がりました。

つまり文化も家事もふくめた
働くことも継承する素地がなくなっていった、
ということになります。

90年代にはリン鉱石が枯渇する
という予測はすでに皆知っているので、
政府として海外不動産、事業への投資に熱心になり、
航空会社、保険会社などにも手を広げ、
その資金を得るため更に採掘ペースを上げるという
リンの消費が増えていく、
つまり枯渇を早める循環に入って行きます。

70年代終わりころリン相場が下落して
初の警鐘があったようですが、
南国のおおらかさなのか、どこ吹く風。

国家レベルで放漫経営は続け、
政治不安もあっても、
国内は大統領はじめ、
みんな知り合いの仲間内なので
責めるものもいない。

投資回収ができていないとしても、
まともに帳簿をつけだしたのが、
かなり没落した2000年代初頭あたり。
なので数百億ドルが20年間で蒸発しても
回収先が判らないくらい、という惨状。

経済的困窮へ

収入が減るにつれて、
安易な収入先を得るため、
マネーロンダリングの温床になるような、
ほぼ無審査でパスポート入手や銀行設立できるようにしていて、
最終的にはアメリカからテロ支援国家認定されてしまい、
国際的な信用も失墜。

リン鉱石の出荷量の減少に応じて、
なるべくして最貧国への道を進んでいくことになります。

1990年代末唯一の合法銀行である
ナウル銀行が資金不足で閉店。
一瞬にしてほとんどの国民の財産が吹き飛びます。

2003年2月21日には
『太平洋の小さな島国ナウル共和国は、
この数週間にわたり
電話通信ネットワークの故障などで、
海外との交信が全く遮断されている。
この孤立化の中で、今は誰が大統領なのか、
島がどうなっているのか、
誰にもさっぱり分からない・・・・』。
こんなニュースがBBCから流れるくらいです。
この間、資金枯渇によるインフラの停止が起きていました。
国家として行方不明になってしまったということです。

現在

現在は、小さくても国連加盟国の1票と
いう大切なカードを使っての他国からの援助と、
リンの2次採掘に力を入れて、
国家再建に挑んでいるとのことです。

これまでリン採掘は露天掘りで
ただ地表の石を削ればよかったのですが、
2次採掘はこの採掘後の岩むき出しの地面の下を
掘ることになるので、容易には進められません。

じゃあ別の道はないかというと、
この界隈の島には珍しく、
サンゴ層がない岩礁
→魚が生息しにくい
→漁での生計は立てにくい。

なので、フィジーのような観光地としての誘致も難しい。

では農業ではどうかというと、
資金があったときも、
今の経済支援を受けても、
土壌自体がの農業に向いていないらしく、
古くから検討していますが、これも難しそうです。

ナウルへの批判について

よくナウルのことを教訓めいて、
宝くじに当たった人になぞらえて、
悪銭身に付かず的な論調がほとんどです。

古代ローマ時代然り、
不労所得だけで生活するとこうなるんだとか、
しっかり資金管理してないからだとか、
先祖からの財産を食いつぶしたとか、
将来を予測できていたはずなのに行動できていなった、
といったような。

もちろん個々の問題はそれぞれ重篤だと思いますし、
身から出た錆といえばそれまでです。

ではそれだけなのかというと、
私はちょっと違うと思います。

ちゃんと未来予測して対応していたのに
結果が出せなかっただけ
で、
その理由は、
対応に頼った人たちがことごとく
詐欺師みたいなものだったため、
この結果になったと思います。

よくナウルは
あぶく銭を持った人になぞられますが、
これにたかり、だます人間が多く
その方がの方がわるいのでは?
と思います。

国全体で考え方が変えられなかったということもあり、
投資先の吟味を怠った
ということが罪といえばそれまでですが、
そもそもお金があるというだけで
集まってくるような人や会社、国に、
国家運営が始まったばかりの国
つまり、ナウルはカモにされていたということ。

例えていえば、搾取のプロが、
裕福な赤ん坊をあやしながらすべてを搾り取った、
ということではないでしょうか?

つまり、リン鉱石を廻って
ナウルが独立してもしなくても
世界から食い物にされていた

という話と見ています。

証券会社のディーラーが100億円もうけても、
流れが変わって200億円負けて、
会社を去っていくといったような、
よくあるモデルの一つに、
ナウルという国がはめられてしまった、
とも言えます。

私の思う最大の悲劇は、
国は退社だけではすまないで、
こういった人の思惑に踊らされて、
丸裸にされたところで、
何をすればいいか、
頼るべき文化や生活の仕方すら
ナウルから忘れ去られてしまったということ。

コミュニティが1万人にも満たないくらい
小さかったので、
いっぺんに全員の生活が変化したせいでもあるかもしれません。

独立から50年近く経っていますが、
50歳以下の独立後に生まれた人は、
食事を作ることさえ知らないと言われていて、
今の食料は100%輸入で主に缶詰とのこと。
栄養も偏り肥満→糖尿病という循環が若い人にもあるそうです。
これはナウルだけのせいなのでしょうか?

銀行破綻で一文無しになった老人が、
「大したことじゃないさ。もうすでに充分に楽しんだから。」
というやり取りが記述されていますが、
独立前の南国の大らかさの中で育った、
その楽しむ前を知っている人はこれでいいとして、
今の若者がどう思っているかは気になるところです。

この本の最後の記述は、糖尿患者のサンシャインの言葉、
「お金持ちになりたくない人なんているわけないじゃない」
で結ばれていますが、人の性というか、もの悲しさを感じる本でした。

ナウルの教訓

ナウルを責める気にもなれないので、教訓は以下の感じでどうでしょうか?

ラッキーで資産をつかんだ後の投資案件には、
だます人が近づいてくるかもしれないので、
これには気をつけよう

ということですかね。
だまそうとする人はプロです。

残念ながら、
ナウルの現在の経済的な状況が
どう変わったかは調べてもよく判りません。

SNSとかで旅行記を見たりしましたが、
あまりいい材料は見つかりませんでした。
でも国際機関と表記されている
太平洋諸島センター
のHPには
観光案内があり
2017年2月発行というナウルのパンフレットがあるので、
島自体はまだ健在ということは判ります。

年表

最後に本やwikiをもとに年表を作ってみました。ご参考ください。

この島は、祖先がアジア系ではないかと考えられている程度で、
起源が判る資料や言い伝えもない

16世紀の大航海時代にこの辺りを探検隊が訪れたが未上陸あるいは未発見

1798 ヨーロッパ探検隊が初上陸。

当時のヨーロッパ人にとっては居心地のいい島ではなく、武器だけおいて引き上げた様子。この武器を使って土着民は紛争起こす。

1888 ドイツ領

1899 リン鉱床の発見。鉱床というより露天掘りできる程

1907 イギリスの会社が利権を持った状態で、リン鉱石採掘始め

リン取引ビジネスはこれ以降1970のナウル完全譲渡までイギリスが利権を持つ

1914 ドイツに変わってオーストラリアが占領

1920 国際的綱引きの結果、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド3国の
委任統治下、国際連盟委任統治領となる。

リン鉱石はイギリスが採掘していた。

1940年代~1970 リン取引収益の2%ほどしかナウルに還元されていない

1942 日本占領。島民はトラック諸島へ移送
1946 アメリカ占領。トラック諸島からナウルに島民帰還
1947 国際連合委任統治領
1966 自治政府樹立
1968 イギリス連邦の共和国として国家独立。
1970 リン取引ビジネスがナウルへ完全譲渡。

この時点で90年代にリンが枯渇することは判っていた。

1970年代初頭オイルショックで、リン始め天然資源が高騰

1970年代GDPは一人2万ドル近く、アラビア半島と肩を並べた。

日本の二倍、アメリカの1.5倍 平均して9000万ドルから1億2千万ドルの可処分所得。1ドル360円が変動相場に移行した時期で、円は高くて1ドル=177.06円(1978年)。当時の日本円なら最低でも160億円くらいが人口5000人の収益。GDPは2万ドル(350万円)程。日本は経済成長が始まり、70万から200万円近くまで伸びていた時代の話。

1977 リン相場が下落して初の警鐘

が、80年代は海外不動産、事業への投資がより活発になる

80年代半ばから政治不安顕在化(86年から22年間で23人の大統領)

90年代、島はリン鉱石採掘のためほとんど木のない状態になっている

1997 リン産出過去最低を記録
1999 地球温暖化による海面上昇を解決するため国連に加盟 小さくても1票
1990年代末唯一の合法銀行資金不足で閉店。
2001 アフガン等の難民を受け入れ。

このころ国庫は空っぽで借金で首が回らない状態。オーストラリアを目指していた難民を受け入れたくないので、仮収容という形でナウルに難民キャンプを建てるオーストラリアとナウルの政治取引。お金で解決ということ。皮肉なことにキャンプのお陰で島の暮らしが成り立つようになる

2002 マネーロンダリング防止のためフランスではナウルとの取引禁止

ほぼ無審査でパスポート作って、ペーパーカンパニーや銀行作ることができる。
これがうまい商売になる

2003 アメリカの金融機関ナウルとの関係断絶。

テロ支援国家として、国際社会から信用失う。

2004 債務返済のためにオーストラリアにすべてに資産を売却
2006 最後の難民認定申請者、オーストラリアの精神病院に強制収容されて終わり
累積赤字20億ドル人口9000人

2008  78.5%が肥満。この多くが糖尿病罹患。どちらも世界一。

 

参考資料

ナウル共和国 外務省データ
ナウルに行ってみた。
消滅の危機、ナウル共和国のいま
【国民総ニート】失業率90%のヤバすぎる楽園、ナウル共和国
ナウルに見る将来

 

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