人は時間を費やして努力すれば天才になれる!
そんな10000時間の法則について、
このネタ元の研究をしていた研究者が、モノ申す。
この数字の一人歩きが我慢できない、
という動機でおそらく書かれた本。
天才を育むのに
長時間の練習が必要なことに代わりはないですが、
運とかコントロールできないモノに頼らないでも
才能、ひいては天才は作れるという、
手法を解説したお話です。
そんなことが書かれているのが
「超一流になるのは才能か努力か?」
アンダース・エリクソン、ロバート・プール著
原題 PEAK Secrets from the new science of expertise
先に紹介したグラッドウェル氏の 天才!で書かれた
才能は結局、自分でコントロールできない運任せか?
に対する
いや自分でも作れる
という大反論が展開されます。
お時間あればセットで読むことがおすすめですね。
天才を検証する
では内容はというと、
まずは天才の検証。
生まれながらの天才というと、
よく例に挙がるのが、モーツアルト。
若くして演奏や作曲したり、
複雑な楽曲を暗譜、
600曲以上の作曲など、
神童と言われたクラッシック界のまさに偉人。
でも、いろいろな逸話を検証したところ、
初期の楽曲は、教えていた
同じ音楽家である父の作品ではないか?
など、モーツアルト像が実はフィクションの
可能性があったり、
陰では、尋常じゃない時間を音楽に割いていたとか、
この天才って、いろんな意味で作られたイメージじゃね?
というツッコミを入れています。
また、高跳びの選手で競技を始めて日が浅い人が
いい記録を出すことがあっても、
たまたま、他の競技の練習で、
その競技に必要なスキルが備わっていたり、
体育の授業で既に高跳びで飛べるイメージが
できているなど、
意図しなくてもその記録のための練習をしていた
とも考えられるらしいです。
天才の作り方
で、こういった”天才”を意図的に作る方法があって、
これを 限界練習 として提唱しています。
鉄則は帯に書かれているので、特に言及はしませんが、
これには4つの定義があります。
①練習にはハッキリ定義した具体的な目標がある
②目的のある練習は集中して行う
③練習したら出来不出来のフィードバック
④コンフォートゾーンから飛び出す
なので、壁にあたってると思うなら、
もっと頑張る
ではなくて
別の方法を考える
と建設的な道を歩むべきで、
この限界練習が役立つとのこと。
まあ、この限界練習は
自分に限界がないことを証明したい人向け
と、後出しじゃんけんのように
本の終盤部分に書かれているので、
それほどでもない方は、これを見て
ちょっとがっかりするかもしれませんね。
こう考えると、
モーツアルトの場合、本人もそうですが、
ほめられるべきは、教育した父で、
上記の4つをうまく駆使して、
天才モーツアルトを作り上げていったのでは
と予想しています。
そして、帝王学とかは別として、
一般市民レベルで資料に残っている、
英才教育を初めて成功させたのが、
この父レオポルド・モーツアルトではないかと
解説しています。
天才 ウォルフガング・アマデウス・モーツアルトは
神に愛されてたというより、
実情は父に愛されていた
という皮肉な感じですね。
限界練習
フィードバックの重要性
限界練習に話を戻しますが、
博士が思うにはこの中で最も大事なことが
③のフィードバック。
これは、
練習してもやりっぱなしではなく、
上達したか、変わらないのか、
しっかり練習の結果を把握して、
次の練習に臨むためのもの。
これにより向上心が引き出されます。
言い換えれば、
練習して、
成功、成長しているという
心的イメージが大事とのことで、
この点に限ってはグラッドウェル氏と共通の認識です。
この心的イメージが変わらなければ
いくら技術が高まっても意味がない
と言いきっています。
心的イメージ
④のコンフォートゾーンから出る、
にも関わりますが、
ここまでできたからいいや
というのでは天才になれませんし、
才能も伸びません。
プロスポーツのドラフトで
上位指名選手が必ず成功するわけではないのは
この、絶対成功できる!という
心的イメージがスカウトのプロの目から見ても
なかなか判断ができないからだとも。
判りにくければセルフイメージと言い換えてもいいと思いますが、
それくらい心的イメージは大事ということです。
教師
このフィードバックのために必要な存在が教師。
教師が生徒の実力に高すぎず低すぎない目標を
提示して、フィードバックを確実に行う。
このため、教師は慎重に選ぶべきで、
長い経験があるとか、優秀な成績を納めた
という理由ではなく、相性に加えて、
どういう練習メニューがあるか
を聞いてみるべきとのこと。
練習は知識よりも技能を得るためのもの。
なので、何ができるようになるかを主眼におく。
誰しも技能は落ちていくものなので、
古い経験に頼っている教師は
見直した方がいいんじゃない?
という感じですね。
なので、自分が成長したと思ったら、
教師は変えてもOKとのことです。
やっぱり努力の時間は大事
前回の、天才!でも語られてた
バイオリン奏者の才能と練習時間の関係が
もう少し詳しく書かれていて、
音大入学までの練習時間は
音楽の先生になれる一般レベル 3420時間
コンテストに出るレベル 5301時間
コンテスト上位に入るレベル 7410時間
平均値なので、10000時間とはいきませんが、
コンテストで優勝する個人、いわゆる天才は、
ゆうに超えていて、
やはり膨大な練習が結果として現れるみたいです。
面白いのが、好きだから練習が続けられるんだろう
と、一般市民は思いがちですが、
インタビューすると
ほとんどの実績を残しているプロは
練習が嫌いとのこと。
要は①の、”ハッキリ定義した練習”
を、嫌々ながらも淡々とこなすことで
自分の本来の目的である、優勝とか喝采などの、
”具体的な目標”を達成する、
を行っているとのこと。
アマチュアのプロとの違いは、
練習を好きだからやっている、
と手段である練習を目的と勘違いしがちなところで、
そんなところでアウトプットに
差が出てくるんじゃないでしょうかね。
集中力
あと②の集中についてですが、
優れた生徒ほど、練習中のミス気づきやすかったり、
休憩時間や休みの日に何をやっていたか
ハッキリわかるそうです。
これはONとOFFがハッキリしている証拠。
練習に集中しているからこそ、
それ以外も覚えている意識の持ち方、
見習いたいですね。
苦しい練習を続けるには
では、楽しい人がいないと言われる苦しい練習を
続けるテクニックはあるのか?
自己流ではここが難しいですが、
それは前出の
心的イメージを広げること。
これは大きな夢の一部とか
成功すると信じるとか、
練習は費用ではなく投資だとか、
何でもいいから、意欲を高めることは大事。
結果が出てくると意欲はますます上がります。
それでもやめてしまう事はある。
そんな時のために、
まずは、練習に取り組む時間帯を決める。
気分に左右されないで、
強制的に習慣にしてしまう。
1回の練習時間の単位を短くする。
単位はせいぜい1時間。
時間がないのでできないという言い訳をできないようにする
後は、よく言われる通り疲れをとる。
しっかり睡眠をとることも忘れない。
限界練習の実績
本書の内容は
大体こんなところでしょうか?
この限界練習の応用で
幼少期にトレーニングをしないと得られない
と言われる絶対音感が
32才でも獲得できたということを例示してます。
ブリティッシュコロンビア大学での学習に
フィードバックを応用した限界練習の
カリキュラムを導入したところ、
教師歴のまだない、若い研究者を教師にしても、
学生の理解度が高いということを実証したり、
実績は上がっているみたいですね。
挑戦してみますか?
ちょっと面白いのが、ブリティッシュコロンビア大学と言えば
先日、TEDの講演を紹介した、ララ・ボイド博士の所属している大学。
もしかしたら、こういった限界学習のプログラムを
共有していたかもしれませんね。
まとめ
この本を読んでみて、
天才には教師の存在が大事ということが、
一番印象的で、
教師の選び方なんかは、コーチの選ばれ方
という目線で読んでました。
コーチングとティーチングは実は全くの別物なんですが、
心的イメージを扱うという面では
同じものなんだろうなとも思えますし、
相互的に考えるべき主題にもなりますね。
一般にはこの区別がされてない現在、こういった心理学者の考える
ティーチングの手法があるということは、
コーチングに生かしていきたいですね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。